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大切な心の故郷だから

今日は、久しぶりに1人だ。

どこに行くにも、ゲンが一緒じゃなきゃつまらない。
でも、1人で行きたい場所が、ひとつだけある。
それは、「井の頭線」。

この機会に、行ってみようと思い立った。

高卒で上京して、専門学校に入って、初めて1人暮らしをして、
初めてバイトをして、初めての恋をして、失恋もして、
初めて社会に出て、仕事の厳しさを学んで、挫折して、
そして、初めて自分を肯定できた場所。
何もかもが初めてで、嬉しくて、毎日が自由だった。

でも正直、その頃の記憶はもう曖昧だ。

学校の友達とはそれっきりだし、
そこで学んだことは、その後に全然活かされてないし、
最初の仕事も神経性胃炎と胃痙攣に悩まされて半年で辞めたし、
初めての恋も“恋に恋する”状態で、
本当に相手のことが好きだったのか今思うと疑問だし、
だからなのか、一方的に執着していたくせに、
ある日突然冷めてスパッと終わりにしてしまった。
引きこもり気味だったし、結構だらだらしてたし、
人に語れるような輝くような時間では決してなかった。

それでも、大切な時間だったんだと思う。
井の頭線に乗ると、あの頃の感覚が胸の中によみがえってきて、ジンとくる。
別に何を思い出すわけじゃないのに、
渋谷で井の頭線の改札を通った瞬間から、じんわりしてしまうのだ。

そして、駅のホームに、車内に、あの頃の私を探してしまう。
見つけたら見守りたくて、探してしまう。
「大丈夫だよ」と言ってあげたくて、たまらなくなるのだ。

そんなふうにじんわりしながら、
渋谷から急行に乗って、永福町で各停に乗り換えて、吉祥寺に向かう。
あの頃の乗り方が、体になじんでいる。
途中、久我山で降りることにした。
神田川沿いを高井戸に向かって歩く。
目的は、川沿いの桜並木。
そのうち、住んでいた町に着く。
駅前の景色のあまりの変わらなさに、ものすごく嬉しく、切なくなる。

そのまま川沿いを歩いていったら、
いつも本を読んでいたベンチも、そのままあった。

そこで一服。
この季節にいつも作っていたおいなりさんを、今日も作って持ってきた。
ほおばりながら、本を読み、たまに桜を見上げる。

完全に、リラックス。
心がほぐれて、全身がリセットされる。

本を閉じて、また歩き出して、高井戸駅に着く。
もう、じんわりは消えていて、身も心もサッパリしている。
電車に乗っても、あの頃の私を探すことはない。

こんなふうに、井の頭線に乗って気持ちが求める場所を歩くと、
体がキレイになるような気がする。
他に代わる場所はない。
そしてこれは、1人じゃないとダメなのだ。

家に着いて、一息ついてるところに、ゲンが帰ってくる。
その、ただいま~と言ういつもの何気ない顔が、とても好きだと思った。

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